当番世話人挨拶

第19回 日本婦人科がん会議

当番世話人 加藤 友康

(国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科 科長)

ゲノム情報に基づく婦人科がん最適医療の確立をめざして

第19回日本婦人科がん会議を担当させていただく国立がん研究センターの加藤友康です。本研究会の開催につきまして、日本婦人科がん会議代表世話人杉山徹先生、JGOG理事長榎本隆之先生、第20回当番世話人高野忠夫先生をはじめ、関係各位に心より御礼申し上げます。

昨今の、婦人科領域における薬物療法には目を瞠るものがあります。卵巣がんの維持療法の必要性は痛感してきましたが、有効な薬剤のエビデンスはありませんでした。2010年版の卵巣がん治療ガイドライン(P74)では、卵巣がんの維持化学療法の有用性は証明されず、臨床試験以外では推奨しないとされ、そのグレードはC2でした。ただ、2010年にGOG218、ICON7に結果が発表され、Bevacizumabの上乗せによるPFS延長が示されていました。その後の臨床試験の成果が続々と発表されエビデンスが蓄積し、今やIII,IV期例のR0例に対する維持療法についてBevacizumabやOlaparibが推奨となりました。(CQ12エビデンスレベルB, 2020年版卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン)。この維持療法の選択には、BRCA1/2遺伝学的検査や相同組換え修復欠損(HRD)検査がコンパニオン診断薬として行われます。また、MSI検査をコンパニオン診断薬として、陽性(MSI-High)と判定された場合に、化学療法後の増悪例に免疫チェックポイント阻害薬Pembrolizumabの投与が2018年末に承認されました。こうしたPARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬により、以前では長期予後が望めなかった状況が一変しています。遺伝子異常にマッチした薬剤の効果については先生方も実感されていることでしょう。

2019年6月遺伝子変異を包括的に調べるがんゲノムパネル検査が標準治療終了例を対象に保険適用されました。さらにがん遺伝子パネル検査を治療早期から導入する医師主導試験が他癌腫で2020年4月から開始されています。FFPEが解析対象ですが、血中循環腫瘍細胞DNA(ctDNA)による遺伝子変異プロファイル検査が、2021年8月に保険償還されました。凍結組織標本によるがん全ゲノム解析の研究が始まっています。大型がんゲノムデータベースであるTCGA(The Cancer Genome Atlas)は白人コホートですが、日本人のがんと宿主のゲノム情報に基づいた最適な治療を目指して少しずつ扉が開いています。

本研究会では、2022年前半に国際学会、国内学会で発表される最新の研究成果を交えるプログラムを考えています。がんゲノム医療時代に突入した婦人科がんの最適医療について、先を見据えた討論をしたく存じます。